自然な立体感を作るミックスのやり方|レコーディングルーティンを再現するUAD Sound City活用術
ミックスをしていると、「音はそれぞれ綺麗なのに、全体で聴くとまとまりがない」「音を足していくほど、逆に不自然になってしまう」と感じることがあります。
こうした問題を解決する方法のひとつが、実際のレコーディングスタジオで行われている録音工程を、プラグインを使って再現する方法です。
今回の記事では、DAWを使ったミックスのやり方として、Sound City系のルームシミュレーションを活用しながら、
- ライン録音とマイク録音を仮想的に再現する
- 各楽器を同じ空間に置く
- プリセンドを使って空間成分を独立して調整する
- コンソールエミュレーションでアナログ的な質感を加える
- 最後は「足す」のではなく「削る」
という考え方を解説します。
ミックスで音を足しているのに、まとまらない理由

DTMでミックスを始めたばかりの頃は、音が足りないと感じるたびにプラグインを追加しがちです。
EQで高域を足す。
コンプレッサーで音を前に出す。
サチュレーションで厚みを加える。
リバーブで奥行きを作る。
このように処理を重ねていくことで、一つひとつの音は派手になります。
しかし、楽器同士の「同じ場所で演奏している感覚」が失われると、ミックス全体はまとまりにくくなります。
そこで重要になるのが、音を加工する前に「どのように録音された音なのか」を考えることです。
レコーディングルーティンをミックスに取り入れる

実際のスタジオ録音では、楽器を演奏した音がそのまま完成するわけではありません。
例えばギターなら、
楽器 → アンプ → マイク → コンソール → レコーダー
という工程を通って録音されます。
この過程では、アンプやマイク、コンソール、部屋そのものが音色に影響します。
DTMでは、ソフト音源から直接音が出てくるため、この「録音された結果としての質感」が不足することがあります。
そこで、プラグインを使って録音工程を仮想的に再現します。
今回の方法では、Sound Cityのようなルームシミュレーションを利用して、ピアノ、ギター、ドラムなどを同じスタジオで録音したような空間に配置します。
ポイントは、単純にリバーブをかけることではありません。
「この音が、実際にこの部屋で録音されたとしたらどう聞こえるか」
という考え方で空間を作ります。
Sound Cityを使って「同じ部屋で録音した音」を作る

Sound Cityのようなプラグインでは、楽器を仮想的なスタジオ空間に配置できます。
マイクの種類や距離、ルームマイク、アンビエントマイクなどを調整することで、直接音とは異なる「部屋から返ってくる音」を作ることができます。
例えばピアノ、ギター、ドラムがすべて別々の音源から作られていても、それぞれに同じスタジオの空気感を与えることで、同じ空間で演奏しているような統一感を作れます。
ここで重要なのが、すでにマイキングされた音源に対して、さらにクローズマイクを重ねすぎないことです。
ピアノやギターの音源には、すでに録音された音やマイキングされた質感が含まれている場合があります。
その上からクローズマイクを追加すると、直接音が二重になり、音が濁ったり位相の問題が発生したりすることがあります。
そのため、こうした場合はルームマイクやアンビエントマイクを中心に使い、「空間だけを追加する」という考え方が有効です。
プリセンドを使って空間を独立してコントロールする

Sound Cityを使ったルーティングで重要なのが、プリセンドです。
通常のポストセンドでは、トラックのフェーダーを下げると、センド先へ送られる信号も基本的に連動して変化します。
しかし、今回のように「ミックス上の音量」と「録音された空気感」を別々に調整したい場合、これは不便です。
そこでプリセンドを使用します。
プリセンドなら、フェーダーを操作してもSound Cityへ送る信号を独立して調整できます。
例えばギターを少し小さくしたとしても、部屋の中で鳴っているような空気感は残すことができます。
つまり、
「音量を決める操作」と「どれくらい部屋に響いているかを決める操作」
を分離できるわけです。
これは、空間系エフェクトを単純にリバーブとして使う場合とは異なる重要な考え方です。
ドラムだけでなく、ベースも同じ空間に送る

今回の方法で特に重要なのが、ベースの扱いです。
ドラムをSound Cityのドラム用スタジオFXへ送るだけではなく、ベースも同じ空間へ少量送ります。
これによって、ベースとドラムが同じ部屋で鳴っているような関係を作ることができます。
ベースは通常、低域を担うため空間系エフェクトを積極的に使わないことも多い楽器です。
しかし、ここで重要なのは「ベースをリバーブまみれにする」ことではありません。
ごく少量の空間情報を共有させることで、ドラムとベースの間に共通する空気感を作ります。
このように、楽器単体ではなく「楽器同士の関係」を考えることが、ミックスの完成度を高めるポイントになります。
ドラムは「トラック → グループ → スタジオFX → バス」で考える

ドラムは複数のマイクや音源から構成されるため、ルーティングを整理しておくことが重要です。
基本的には、
ドラムトラック → ドラムグループ → ドラムスタジオFX → ドラムバス
という構造にします。
これによって、ドラム全体をまとめながら、そのドラムをどれくらい仮想スタジオに送るかも管理できます。
CubaseではグループチャンネルとFXチャンネルを使い分けることで、このような構造を作ることができます。
なお、フォルダは見た目を整理するためのものなので、バスとは役割が異なります。
フォルダにトラックを入れただけでは、音声信号が自動的にまとめられるわけではありません。
コンソールエミュレーションは全体で統一する

レコーディングルーティンを再現する場合、コンソールエミュレーションも重要です。
例えばAPI系のコンソールエミュレーションを使うのであれば、特定のトラックだけではなく、基本的に全体を同じコンソールの思想で統一します。
ピアノはAPI。
ギターはNeve。
ドラムは別のコンソール。
というようにバラバラにしていくと、それぞれの音は魅力的でも、最終的なミックスとしてまとめにくくなる場合があります。
もちろん、音楽的な意図があって使い分けることは可能です。
しかし、レコーディングスタジオのコンソールを再現するという目的なら、まずは「同じコンソールを通す」という考え方から始めると整理しやすくなります。
ゲインステージングを先に整える

アナログ機器を再現したプラグインでは、入力レベルによって音色が変化するものがあります。
そのため、プラグインを挿しただけで満足するのではなく、入力レベルを適切に管理することが重要です。
ここで便利なのが、複数のトラックをまとめて操作できるキューリンクのような機能です。
同じコンソールエミュレーションを複数トラックに使用している場合、各チャンネルの入力レベルを効率的に調整できます。
このような「最初に全体のレベルを整える」という工程を入れることで、後のEQやコンプレッサーの設定も安定しやすくなります。
ミックスは「足す」より「削る」

レコーディングルーティンを再現すると、音に自然な倍音や空間情報が加わります。
ここで重要なのが、その後にさらに音を足し続けないことです。
むしろ、
「すでに加わったものを整理する」
という考え方が重要になります。
例えばEQなら、足りない高域をブーストする前に不要な低域をカットする。
コンプレッサーなら、音を派手にするためではなく、必要なダイナミクスを整理する。
フェーダーを上げるために過剰な処理をするのではなく、不要な成分を取り除いて必要な音が聞こえる状態を作る。
このような引き算の発想です。
「音を足して完成」ではなく「不要なものを削って完成」に近づける

ミックスで迷ったときは、次の順番で考えてみてください。
まず、各楽器がどのような録音工程を経た音なのかを考えます。
次に、必要であればコンソールやルームシミュレーションなどを使って、自然な倍音と空間情報を加えます。
そして最後に、EQやコンプレッションなどで不要な部分を整理します。
つまり、
録音工程の再現 → 空間の統一 → 音量バランス → 引き算
という流れです。
最初からEQやコンプレッサーで音を作り込むのではなく、「まず自然な録音状態を作る」という発想に変えるだけでも、ミックスの考え方は大きく変わります。
Sound Cityを使うときの注意点

便利な方法ですが、すべてのトラックに同じ量で適用すれば良いわけではありません。
特に注意したいのが、音源自体にすでにマイキングやルーム処理が含まれている場合です。
その場合、さらにクローズマイクやルーム成分を大量に追加すると、音が濁ってしまう可能性があります。
また、空間を統一することと、すべての音を同じ距離に置くことは同じではありません。
ボーカルを前に出したい場合、ギターを少し後ろに置きたい場合など、楽曲の構成に応じて距離や送り量を変えて構いません。
「同じ部屋にいる」という共通点を作りながら、それぞれの楽器の前後関係を調整することが大切です。
まとめ

ミックスのやり方に正解は一つではありません。
しかし、音が増えすぎてまとまらない場合は、プラグインをさらに追加する前に「録音工程そのもの」を見直してみる価値があります。
Sound Cityのようなルームシミュレーションを使えば、DAW上でも、
- 楽器を同じ空間に配置する
- ライン録音とマイク録音を仮想的に組み合わせる
- プリセンドで空間成分を独立して調整する
- ドラムとベースの空間を共有する
- コンソールエミュレーションで質感を統一する
といった、実際のレコーディングに近い考え方を取り入れられます。
そして、その後のミックスでは「何を足すか」ではなく、「何を削れば必要な音が見えてくるか」を考えてみましょう。
ミックスとは、単に音を派手にする作業ではありません。
良い音を作るための処理だけでなく、最終的に楽曲全体が自然に一つの空間で鳴っているように感じられる状態を作ることも、重要なミックスの仕事です。
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