マスタリングのやり方|LUFS・トゥルーピーク・リミッターの基本と実践手順

マスタリング

楽曲制作の最後に行う「マスタリング」。

「ミックスが完成したら、最後に音圧を上げればいい」と考えている人も多いかもしれません。しかし、マスタリングには単純に音量を上げるだけではなく、楽曲全体のバランスを整え、配信や再生環境に適した状態へ仕上げる役割があります。

特に現在の音楽制作では、LUFSやトゥルーピークといった数値を確認しながら、音圧と音質のバランスを取ることが重要です。

この記事では、DAWを使って自分でマスタリングを行うために必要な考え方から、実際の処理手順までを解説します。

マスタリングとは何をする作業なのか

Akashic DTM教室の機材写真

マスタリングは、基本的には「完成したミックスを最終的なリリース用の音源へ仕上げる工程」です。

ミックスでは、ボーカル、ギター、ベース、ドラムなど、それぞれの音量・定位・音色を調整します。

一方、マスタリングでは、それらがすべてまとまった2Mixを対象にします。

主な目的は、

  • 楽曲全体の音量を適切にする
  • 周波数バランスを最終調整する
  • 必要に応じてサチュレーションなどで質感を整える
  • トゥルーピークを管理する
  • 配信・再生環境に適した音源に仕上げる

といったものです。

つまり、マスタリングは「ミックスを作り直す作業」ではありません。

ミックスである程度完成された音源を、最後にリリース可能な状態へ整える工程と考えると分かりやすいでしょう。


LUFSとは?デシベルとの違い

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マスタリングで頻繁に登場するのが「LUFS」です。

デシベル(dB)は、デジタルオーディオにおける信号レベルを表すために使われます。

一方、LUFSは、人間の聴覚特性を考慮して「実際にどの程度の音量として聴こえるか」を評価するための指標です。

そのため、

「ピークは同じなのに、こちらの曲の方が大きく聞こえる」

という場合には、LUFSを見ることでその違いを把握できます。

マスタリングでは、ピーク値だけではなくLUFSも確認することが重要です。

インテグレーテッドLUFSとは

LUFSにはいくつかの測定方法がありますが、楽曲全体の音圧を確認するときに重要なのが「Integrated LUFS(インテグレーテッドLUFS)」です。

これは、楽曲の再生開始から終了までの音量を積分して算出する値です。

ここで注意したいのが、途中でマスタリングの設定を変更した場合です。

例えば、

「マキシマイザーのスレッショルドを少し下げた」

という変更をした場合、測定値も変わります。

そのため、正確なIntegrated LUFSを確認するには、基本的に曲の最初から最後まで再生して測定し直す必要があります。

マスタリングでは、

「つまみを少し動かす → 最初から再生する → LUFSを確認する」

という作業を繰り返すことになります。


「-14 LUFS」は絶対的な正解ではない

Akashic DTM教室の代表、Ikumi Magataの作業風景

YouTubeやSpotifyなどのストリーミングサービスでは、ラウドネスノーマライゼーションが行われています。

これは、楽曲ごとの音量差を小さくして、曲を切り替えたときに極端な音量差が発生しないようにする仕組みです。

その説明として「-14 LUFS」という数字がよく登場します。

ただし、

「すべての音楽を必ず-14 LUFSにしなければならない」

という意味ではありません。

むしろ重要なのは、配信サービス側で音量調整が行われることを理解した上で、自分の楽曲に必要な音圧を判断することです。

例えば、音圧を上げすぎることで、

  • ダイナミクスが失われる
  • キックやスネアが潰れる
  • ボーカルの質感が変わる
  • 歪みが目立つ

といった問題が発生する場合があります。

したがって、LUFSの数字だけを追いかけるのではなく、「必要な音圧を、できるだけ音質を保ったまま得る」という考え方が重要です。


トゥルーピークとは?

もう一つ、マスタリングで非常に重要なのが「True Peak(トゥルーピーク)」です。

通常のデジタルメーターで表示されるピーク値と、トゥルーピークは同じものではありません。

デジタルオーディオでは、サンプルとサンプルの間に存在するピークが、再生時に実際のピークとして現れる場合があります。

そのため、デジタル上では0dBを超えていなくても、DA変換後にピークが0dBを超える可能性があります。

これが、トゥルーピークを確認する理由です。

シーリングを-2dBにしてもTrue Peakが超える理由

ここは初心者が特に混乱しやすいポイントです。

例えばリミッターのシーリングを、

「-2dB」

に設定したとします。

それでもトゥルーピークメーターを見ると、

「-1.2dBTP」

などと表示されることがあります。

これは異常ではありません。

リミッターのシーリングは、基本的にデジタル上のサンプルピークを制限するものです。

一方、True Peakはサンプル間のピークも推定して測定します。

つまり、

「デジタル上の最大値」と「再生時に発生する可能性があるピーク」

は別物です。

そのため、最終的なマスタリングではTrue Peak対応のメーターを確認することが重要になります。


マスタリングの基本的なプラグイン構成

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マスタリングだからといって、たくさんのプラグインを使用する必要はありません。

むしろ、最初はシンプルなチェーンから始める方が、処理の意味を理解しやすくなります。

基本的には、

  1. EQ
  2. サチュレーション
  3. マキシマイザー
  4. リミッター

という構成から始めることができます。

重要なのは、各プラグインに明確な役割を持たせることです。

1. EQ

最初にEQで不要な帯域を整理します。

マスタリングでは、ミックス全体に対して大幅なEQを行うのではなく、

「少し気になる帯域を整理する」

程度から始めるのが基本です。

例えば低域が過剰に膨らんでいる場合は、不要な低域をわずかにカットします。

マスタリングでは、1つの帯域を大きく動かすよりも、少ない処理で全体のバランスを改善することが重要です。


2. サチュレーション

次に、必要に応じてサチュレーションを加えます。

サチュレーションには、

  • 音に厚みを加える
  • 立体感を出す
  • 高域や中域に質感を加える
  • アナログ機器のような質感を演出する

といった効果があります。

ただし、マスタリングではかけすぎに注意が必要です。

サチュレーションは「音を変えるためのエフェクト」なので、処理量が大きくなるほど元のミックスから離れていきます。

「かかっていることが分からない程度でも、バイパスすると少し物足りない」

くらいから試してみるとよいでしょう。


3. マキシマイザーで音圧を上げる

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マスタリングで音圧を上げる中心的な役割を担うのがマキシマイザーです。

基本的な考え方は、

「音のピークを処理しながら、楽曲全体を持ち上げる」

というものです。

マキシマイザーには「Threshold(スレッショルド)」と「Ceiling(シーリング)」などのパラメーターがあります。

スレッショルドを下げると、より多くの信号が処理対象となり、結果として音圧を上げることができます。

ただし、下げすぎると、

  • 音が潰れる
  • キックのアタックが弱くなる
  • スネアの勢いがなくなる
  • ボーカルの表情がなくなる
  • 歪みが増える

といった問題が発生します。

したがって、

「LUFSを目標値にする」

だけではなく、

「その音圧で音楽として成立しているか」

を必ず耳で確認してください。


4. リミッターでトゥルーピークを管理する

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最後にリミッターを使用して、出力の最大値を管理します。

ここで重要なのは、マキシマイザーとリミッターの役割を分けることです。

マキシマイザーは主に、

「必要な音圧を得る」

ために使用します。

一方、最後のリミッターは、

「最終的なピークを安全な範囲に収める」

ために使用します。

例えば、最終的なTrue Peakを-2dBTP程度に抑えたいのであれば、True Peakを測定できるメーターを確認しながらリミッターの出力を調整します。


実践:Cubaseでマスタリングする手順

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ここからは、実際の作業手順を整理します。

STEP 1:ステレオアウトを確認する

マスタリングでは、基本的にステレオアウトを処理します。

これは楽曲内のすべてのトラックが最終的に通過する場所です。

個々のトラックを処理するミックスとは違い、ここでは完成した2Mix全体を扱います。


STEP 2:メーターを準備する

まず、ステレオアウトにメーターを用意します。

確認する項目は、

  • Integrated LUFS
  • True Peak

です。

特にIntegrated LUFSは、楽曲全体を再生して測定します。

再生開始位置が曲の途中だと、正確な楽曲全体の値にならないため注意してください。


STEP 3:EQで不要な帯域を整理する

最初にEQを挿入します。

ここでは「音を派手にする」ことを目的にせず、不要な帯域を整理します。

ミックスの時点で低域が膨らみすぎているなら低域を整理し、高域が過剰なら必要に応じて調整します。

マスタリングEQで大幅な修正が必要になった場合は、そもそものミックスに問題がないか確認することも重要です。


STEP 4:サチュレーションで質感を調整する

必要であればサチュレーションを追加します。

ここでは音圧よりも、

「音が少し立体的になったか」

「質感が良くなったか」

を基準に判断します。

音量が上がったことで「良くなった」と錯覚しないよう、バイパス時との音量差にも注意しましょう。


STEP 5:マキシマイザーで音圧を上げる

次にマキシマイザーを使用します。

まずは無理に大きな音圧を狙わず、少しずつスレッショルドを下げていきます。

目安として、講義では最終的に-11 LUFS程度を狙う方法が紹介されました。

ただし、これは絶対的な正解ではありません。

曲によって適切な音圧は異なります。

例えば静かな楽曲を無理に大音量化すると、音楽的なダイナミクスが失われる可能性があります。


STEP 6:リミッターでTrue Peakを調整する

最後にリミッターを使用します。

ここではTrue Peakメーターを確認しながら、出力を調整します。

講義では、

「True Peak -2dBTP程度」

を目標とする方法が紹介されました。

例えば、

  • Integrated LUFS:-11
  • True Peak:-2dBTP

という状態を一つの目安として考えることができます。

ただし、実際のリリースでは楽曲のジャンルや用途、配信仕様なども考慮してください。


Cubase純正プラグインだけでもマスタリングできる?

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もちろん可能です。

重要なのは、特定のメーカーのプラグインを持っていることではありません。

EQ、サチュレーション、マキシマイザー、リミッター、メーターという役割を満たせれば、基本的なマスタリングは行えます。

ただし、True Peak検出機能を持つマキシマイザーやリミッターを使用すると、より正確にピーク管理を行いやすくなります。

講義ではWavesのL3 Ultra Maximizerなどが例として挙げられました。

また、NLS Channelなどのコンソール系プラグインをサチュレーション用途に使用する方法もあります。

しかし、これらは必須ではありません。

「高価なプラグインを買えばマスタリングが上手くなる」

というわけではないため、まずは手持ちのプラグインで処理の考え方を身につけることをおすすめします。


マスタリングで最も重要なのは「数値」ではない

マスタリングを始めたばかりの頃は、

「-14 LUFSにしなければいけない」

「-11 LUFSにすればプロっぽくなる」

「True Peakは-2dBTPにすれば正解」

というように、数値だけを追いかけてしまいがちです。

しかし、数値はあくまで判断材料です。

最終的には、

「音が気持ちよく聴こえるか」

「音割れしていないか」

「低域が潰れていないか」

「ボーカルが自然に聴こえるか」

「ミックスの良さが失われていないか」

を耳で確認する必要があります。

特にヘッドホンは、音割れや細かな歪みを発見しやすいため、最終チェックに有効です。


音圧を上げすぎないことも技術

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音圧を上げること自体は簡単です。

マキシマイザーのスレッショルドを下げれば、LUFSは上がっていきます。

問題は、

「どこまで上げても音楽として成立するか」

です。

音圧を上げるほど、楽曲のダイナミクスは失われやすくなります。

例えば、

キック → スネア → ボーカル

という音楽的な抑揚がある曲を、極端に潰してしまうと、すべての音が同じような密度になってしまいます。

したがって、マスタリングでは、

「最大音圧を目指す」

のではなく、

「必要な音圧を、できるだけ自然な音質で実現する」

という考え方が重要です。


音圧戦争はなぜ起こったのか

音圧を重視するようになった背景には、いわゆる「ラウドネス・ウォー(音圧戦争)」があります。

1990年代以降、ラジオなどで曲を切り替えたとき、

「音量が大きい曲の方が迫力がある」

と感じられることから、楽曲の音圧を競うような傾向が強まりました。

デジタル音源では0dBFSという上限があるため、その限界まで音量を詰めるためにコンプレッションやリミッティングが積極的に使用されました。

しかし、音圧を上げ続けるとダイナミクスが失われ、音楽的な表現にも影響します。

ストリーミングサービスの普及によってラウドネスノーマライゼーションが一般化した現在では、「とにかく大きくする」という考え方だけではなく、音質やダイナミクスを含めた総合的な判断が重要になっています。


クリエイターに必要なマスタリング技術はどこまで?

Akashic DTM教室の代表、Ikumi Magataの作業風景

作曲・編曲を中心に活動するクリエイターであれば、必ずしもマスタリングエンジニアと同等の技術を身につける必要はありません。

まず目指したいのは、

「自分でミックスした楽曲を、自分で最低限リリース可能な状態まで仕上げられる」

というレベルです。

特に重要なのは、

  • LUFSの意味を理解する
  • True Peakを理解する
  • マキシマイザーの役割を理解する
  • リミッターの役割を理解する
  • 音圧を上げすぎることの問題を理解する
  • 最終的な音質を耳で判断する

ことです。

これらを理解していれば、必要に応じて専門のマスタリングエンジニアへ依頼するときにも、完成形をイメージしやすくなります。


マスタリングの基本レシピ

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最後に、今回の内容をシンプルな手順としてまとめます。

① EQ

不要な帯域を整理する。

② サチュレーション

必要に応じて立体感や質感を加える。

③ マキシマイザー

スレッショルドを下げながら、必要な音圧まで引き上げる。

④ リミッター

True Peakを確認しながら最終的なピークを管理する。

⑤ メーターで確認

Integrated LUFSとTrue Peakを確認する。

⑥ 耳で最終確認

音割れ、潰れ、低域の変化、ボーカルの質感、全体のダイナミクスをチェックする。


まとめ

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マスタリングは「音量を最大まで上げる作業」ではありません。

ミックスが完成した後に、楽曲全体のバランス、音圧、ピーク、質感などを最終的に整え、リリースできる状態へ仕上げる工程です。

特に最初は、

「LUFSを何にするか」

だけに集中するのではなく、

「LUFSは音圧を見るための指標」
「True Peakはピーク管理のための指標」
「マキシマイザーは音圧を上げる」
「リミッターは最終的なピークを管理する」

という役割分担を理解しましょう。

数値を確認しながら、最後は必ず自分の耳で判断する。

この考え方を身につけることが、自分でマスタリングを行うための第一歩です。

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